※写真は三修社のHPからコピーしました
「多文化社会のコミュニケーション-買いかぶらず、決めつけない基本スキル-」
山本喜久江・八代京子 著
(2020年 三修社)(216頁 本体 2,000円+税)
勝又恵理子
青山学院大学
本著は、多文化社会で上手くコミュニケーションを取るために必要なスキルを育むための本である。
著者、山本喜久江氏と八代京子氏は本学会の会員であり、長年にわたって学校教育や企業研修で異文化コミュニケーション、国際理解、多様性、グローバルリーダーシップなどを教えてきた経験を活かして本書を執筆した。
世界でCovid-19が猛威を振るわせる最中に出版された本著は、まさに多文化社会を生き抜くための必読書と言えるのではないだろうか。また連日ニュースで海外と日本のCovid-19の状況が流れ、それと同時にさまざまな意見や価値観の多様性を目の当たりにすることが多くなった中、国内・国外で数多くの経験を重ねた著者2名が書いた本著は多くの人が待ち望んでいたであろう。
本書は、2006年に発行された『多文化社会の人間関係力-実生活に活かす異文化コミュニケーションスキル-』の改訂版である。本著は7章からなり、第1章は「人間関係力」について述べており、そして、第2章から7章までは、この人間関係力に必要な6つの資質・能力について詳しく解説している。各章は3~5の具体的な「事例」と各事例を詳しく説明した「振り返りポイント」を中心とした本文、2~3の解説付きの「エクササイズ(Do IT Yourself!)実践」、さらに新たに加わった「スキル演習」とその説明で構成されている。
第1章では多文化社会で必要な人間関係力について説明し、人間関係力とは「人と良い関係を築くことができる力(p.12)」だと述べている。そして、人間関係力に必要な6つの資質は特に日本人に必要で効果的だと思うものを提唱している。第2章では人間関係力の資質の1つである「自己受容」について、他人を理解するのも大切だが、今の自分自身を見つめ、ありのままの自分を受け入れることが大切だと説いている。第3章では、2つ目の資質「感情管理」は、多文化社会で予想していなかったことに直面した時、感情をコントロールすることの重要性を紹介している。第4章は、3つ目の資質「多面的思考と創造性」とは頭を柔らかくして考え、創造することである。多面的な分析思考から創造的な発想が生まれ、さまざまな事態に対応できると述べている。第5章は4つ目の資質「自律・責任感」とは自分に責任を持ち、周りがリードしてくれるのを待っているのではなく、自ら行動する自覚と責任を持つこと。また時には他者に助けを求めることも必要であると説いている。第6章では5つ目の資質「オープンな心と柔軟性」は新しいことを受け入れる柔軟な姿勢と従来の考え方や対処法を柔軟に変えることができる能力であると説明している。第7章では6つ目の資質「コミュニケーション力」、つまり自分の考えを表現する力があり、相手の話に共感を持ちつつ丁寧に聴きくことで、相手のものの見方や考え方を理解することができる。7章にはコミュニケーションの「在り方」だけでなく、「やり方」が含まれている。
本著の特徴は3つある。1つ目は各章の具体的な事例の多様性である。学生、社会人、性別、年齢、職業、価値観の違いなど、さまざまな事例が紹介されているため、異なる立場の人の考え方やものの見方が学べるようになっている。そして、その事例の「振り返りポイント」はコミュニケーションが成功するポイントが丁寧に説明されている。2つ目は、各章の最後に新たに加わった「スキル演習」とその解説である。実践しながらコミュニケーションのやり方(スキル)を試し、そのスキルについてなぜそのスキルが大事なのか、どう役立つのか詳しく解説されている。読むだけでなくエクササイズを通して体験することによって、スキルが身につくようになっている。3つ目は、コミュニケーションスキルの「心の有り様(在り方)(p.199)」と6つの資質の関係に焦点を置いていることである。著者は「心とスキルの合同作業によって、本書の6つの能力は人間関係構築の面で力を発揮できるでしょう。(p.199)」と述べている。多様性に必要な資質・能力だけでなく、相手を思いやる心、相手を理解しようとする心などがあってはじめて能力が開花することを説いている。
本書を通じ、読むだけでなく実践してスキルを身につけることが大切と教えを受けた評者は、「本著のエクササイズ」と「スキル演習」を試してみた。それにより心とスキルを兼ね備えていなかった自分を見つめなおすことができた。このように本書は多くの人の共感を呼び、現代の多文化社会で生き抜くためのコミュニケーションスキルが身につく1冊だと言える。